Research

微細加工技術を用いて、新規スピントロニクス物質に関するスピン流物性、特に輸送物性についての研究をしています。


常磁性スピントロニクスの開拓

これまでスピントロニクス材料と考えられていなかった常磁性絶縁体でのスピン流科学の開拓を行なっています。

スピンがランダムな状態を常磁性体と呼びます(右図)。常磁性の物質中では磁気秩序によるスピン流輸送は期待できず、長距離にスピン流を流すことは不可能である、というのがスピントロニクスの常識でした。

本研究では、その常識を覆し、常磁性絶縁体であってもスピン流を長距離に流すことができることを明らかにしました。

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さらに、最近では常磁性絶縁体と金属との界面におけるスピン輸送についても研究を行い、強磁性体特有の現象と考えられていたスピンホール磁気抵抗効果が常磁性絶縁体においても現れることを明らかにしました。

【参考文献】
Koichi Oyanagi, Saburo Takahashi, Ludo J. Cornelissen, Juan Shan, Shyunsuke Daimon, Gerrit E. W. Bauer, Bart J. van Wees, and Eiji Saitoh,
“Spin transport in insulators without exchange stiffness”
Nature Communications 10, 4740 (2019).
常磁性絶縁体中を長距離に伝搬するスピン流を発見した。

Koichi Oyanagi, Juan M. Gomez-Perez, Xian-Peng Zhang, Takashi Kikkawa, Yao Chen, Edurne Sagasta, Andrey Chuvilin, Luis E. Hueso, Vitaly N. Golovach, F. Sebastian Bergeret, Fèlix Casanova, and Eiji Saitoh,
“Paramagnetic spin Hall magnetoresistance”
Physical Review B 103, 134428 (2021).
常磁性絶縁体においてスピンホール磁気抵抗効果が現れることを明らかにした。

Koichi Oyanagi, Saburo Takahashi, Takashi Kikkawa, and Eiji Saitoh,
“Mechanism of paramagnetic spin Seebeck effect”
Physical Review B 107, 014423 (2023).
常磁性絶縁体におけるスピンゼーベック効果について、理論的・実験的に研究を行い、その発現メカニズムを明らかにした。

J. M. Gomez-Perez, K. Oyanagi, R. Yahiro, R. Ramos, L. E. Hueso, E. Saitoh, and F. Casanova,
“Absence of evidence of spin transport through amorphous Y3Fe5O12
Applied Physics Letters 116, 032401 (2020).

常磁性絶縁体中を流れるスピン流の概念図


磁性絶縁体中のスピン輸送現象

磁性体中のマグノンによるスピン輸送に関する研究を行なっています。

磁気秩序が存在する磁性体には、磁化の集団歳差運動(マグノン)がスピン流を運ぶことができます。研究には、熱的にマグノンスピン流を生成し、その輸送特性を調べる「非局所スピンゼーベック効果」を用いています(右図)。

特に、新たな長距離スピン輸送のキャリアとしてマグノンが格子振動(フォノン)と結合した「マグノン-ポーラロン」に注目して研究を行なっています。

【参考論文】
Ludo J. Cornelissen*, Koichi Oyanagi*, Takashi Kikkawa, Z Qiu, Timo Kuschel, Gerrit E. W. Bauer, Bart J. van Wees, and Eiji Saitoh,
“Nonlocal magnon-polaron transport in yttrium iron garnet”
Physical Review B 96, 104441 (2017).
* These authors contributed equally to this work.
マグノンとフォノンの混成粒子である”マグノン-ポーラロン”による長距離スピン伝搬を実証した。
Physical Review B誌の注目論文に選定

K. Oyanagi, T. Kikkawa, and E. Saitoh,
“Magnetic field dependence of the nonlocal spin Seebeck effect in Pt/YIG/Pt system at low temperature”
AIP Advances 10, 015031 (2020). [Featured article]
Selected as AIP Scilight., and the cover of AIP Advances.

非局所スピンゼーベック効果の測定概念図

マグノン-ポーラロンによるフォノン異常